「素材のいい家を造りたい」
札幌の山が淡い夕闇に包まれる頃、1台の車が山の麓にあるレストランの駐車場にとまった。レストランといっても、こぎれいにまとめられた普通の店ではない。国道から旧道を2キロほど登ったところにある、通りすがりの者は見逃してしまいそうな一般家屋のような建物である。
車から降りた男はポロシャツにジャケットをさりげなく着こなすカジュアルな服装だ。大きなガラスの引き戸の入り口から声もかけずに入っていく。どうやら常連のようだ。

福見宏徳写真

「お、いらっしゃい」店の主人が声をかけた。
「まだ誰も?」男はたずねた。
「うん、もうそろそろじゃないかな。もう7時だしね」
その時、外で車が止まった気配がした。
「ほらね」。店の主人は人なつこそうに笑った。
程なく2人の男が店に入ってきた。
「待ちました?」口ひげの男がたずねると、「いや、今来たところだよ」とポロシャツの男が答える。口ひげの男と一緒に入ってきた男は3人の中では一番若く、淡いチェックのカッターシャツを来ている。にこやかに会釈を交わす。
ポロシャツの男の名は妻沼といった。中堅の建設会社を経営している。遅れて来た口ひげの男は福見。東京に本社がある建具メーカーの札幌営業所の所長をしている。一番若いカッターシャツの男は一級建築士で宮島といった。

「最近の住宅で、ホントに満足しているんだろうか?」
3人は近況などを語り合いながらビールを飲み始めた。
「今日はなんの集まりでしたっけ」宮島が笑みを絶やさずたずねる。彼はこの顔ぶれが好きらしい。福見も同様だ。彼らにとって集まる理由は何でもいいのかもしれない。
「うん、マスターがおいしいものを食べさせてくれるっていうから声をかけたんだ。ねえマスター?」

店の主人は白い歯を見せ、親指を立てながら前菜を運んできた。

宮島豊写真

「でも、何か話したいことがあるんでしょう。僕たちだけに。この隠れ家に召集がかかるってことは」宮島が微笑みながら妻沼の顔をのぞき込む。
妻沼は「うん、まあね」と笑い、少し間をおいて「君たちは最近の住宅についてどう考えている」と切り出した。
少し考えて宮島が話し出す「本物が消えて行っていると言うところでしょうか。大きな建築会社ほど、ハウスブローカー的な立場をより鮮明にしてきてますね。イメージ先行でコストを限界まで下げ、誰でも簡単に作れるものを『組み立てて』売っている、といった感じでしょうか」

「建ててからも変われる家っていいよね」
「住宅の利益半分はとっている建築会社もいるんじゃないかな」福見が冗談っぽく続ける。「高気密とか高断熱とかをうたっている割りには、素材には無頓着な家もあるんだよね。買わされる人が可哀想になりますね」

テーブルには、ホワイトアスパラと水牛のモッツァレラチーズのバルサミコソース、ホッキ貝のフリットが並べられた。どちらも北海道の旬の素材を生かした料理だ。


前へ< >次へ


料理写真 自家製の生ハムとルッコラの盛り合わせ
「酷のある塩味がビールとの相性抜群」

料理写真 シャコ、ホワイトアスパラ、水牛のモッツァレラチーズとトマトのバルサミコソース
「このトマト、どうしてこんなにも甘いの?と感激。」