Sさま邸の特徴
Sさまのお宅が建つ場所は、西向きの住宅密集地。建て替え前は暗くて寒さに凍えるほどでしたが、わずかな光を最大限に生かした設計の工夫で、日当たりの良い暖かい住まいに生まれ変わりました。性能面では「北方型住宅ECO」を採用し、高耐久、バリアフリー、省エネルギー、地域資源の活用などの「北方型住宅基準」をクリアした高性能住宅です。
設計/奈良建築環境設計室
経済的で暖かい家、それは絶対条件でした。Sさまのご希望はそれだけではありません。住宅地では、建物が密集するため家の中からお隣さんが丸見え、ということがあります。プライバシーに配慮しながら、日当たりのいい家を建てるにはどうしたらいいのでしょうか?建築家と工務店が力を合わせ、この難題に挑みました。
築30年「寒い家」からの解放
「冬になると廊下の気温は零度、凍るほど寒かった」という築30年の家にお住まいだったSさまご夫婦。2年前、家の老朽化によるひどい寒さから建て替えを検討し始めました。
何事にも研究熱心なSさま。住宅専門誌をあれこれ読み、モデルハウスを見学、住宅に関するフォーラムの参加など、家づくりの情報を積極的に集めるようになりました。
そんななか、道が進める「北方型住宅」を特集した雑誌記事に、奈良建築環境設計室の建築家・奈良さんと拓友建設社長の妻沼さんの二人が専門家として登場し、北方型住宅についてわかりやすく説明していました。興味を持ったSさんは、インターネットで奈良さんの情報を検索。
「写真で見る家の雰囲気も感じが良く、奈良さんは夫婦で設計されているので女性的な視点に立った相談にも乗ってくれそう」と一緒にインターネットを見ていた奥様にも好印象でした。そこでSさんは奈良建築環境設計室へ連絡、「暖かい家」の実現への第一歩を踏み出したのです。
庭には弧状の建物に並行して作られた弧状の花畑が玄関アプローチから続く。庭づくりはご夫婦の楽しみでもあるようだ
奥様が長時間を過ごすキッチンから見える窓には緑が望む。女性の目線に立った奈良さんの優しさが伝わる
「わずかな日差し」から「暖かい家」を
「新築を機に新たな土地の購入も考えましたが、ここは駅から徒歩7分と通勤に便利で、何より長年暮らした土地への愛着がありました」というSさま。しかし、この土地は西向きの住宅密集地。以前の家は日当たりが悪く、暗くて寒い状態でした。
「わずかな日差し」で「暖かい家」を建てるには、専門家のノウハウが不可欠だと感じたSさんは建築家に託すことにしたのです。そんな思いをくみ上げ、奈良さんがS邸に作った設計プランは、基本となるAプランから完成のIプランまで、実に9段階の進化を遂げての完成となりました。
弧状を描く壁
何度も何度も打ち合わせを重ねてたどり着いたその建物の形状は南東側から入るわずかな日当たりを有効に利用するため、南東側全面を弧状に描いています。
「この形状は日差しを取り入れるのには最適ですが、手持ちの四角い家具を置いたりするのには不向きです。しかしSさまの場合には、ご夫婦二人の生活となった今、物は必要最低限しか持たない、といった生活の志向がありましたので家具の配置を気にすることはありません。また、外壁面積が四角い家より少ないので断熱効果もあります」と奈良さん。
大きさ、位置、軒の出など綿密に計算されたすべての窓から緑が望まれ、柔らかい日差しが入ります。弧状の空間は、三方家に囲まれた立地を忘れてしまうほど、日の光に包まれた心地よさを感じます。
家の広さは約35坪。生活の中心は日当たりの良い2階にあります。階段上り下りが大変になったときに備えて、家庭用エレベーターを設置するスペースも確保してあります。1階は息子さんが家族を連れて遊びに来た時に使っています。
暖かい日差しに包まれる2階LDK。キッチン手前にはバスルームとトイレ、和室もあり、すべて開放した空間となっている。普段の生活は2階中心。将来のためにエレベータースペースも準備してある
壁や玄関などのちょっとしたスペースには、奥様お手製のドライフラワーや木の実がセンスよく飾ってある。壁の一部には松材を使用。過ぎ行く時間で木の味わいも増す
「北方型住宅ECO」で得た満足
S邸は「北方型住宅ECO」を採用。高い耐久性、バリアフリー、省エネルギー、地域資源の活用などの「北方型住宅基準」をクリアし、その性能に磨きをかけた高性能住宅です。このような家づくりには熟練施工のノウハウも欠かせません。施工を担当したのは、北方型住宅のエキスパートである拓友建設でした。
この家で暮らして1年を過ぎた今、Sさまが第一に満足しているのは「とにかく暖かく光熱費となる電気代が安いこと」。冬場も室内は22℃以上をキープし快適に暮らしていますが、Sさまが毎月の電気代を記録したところ、一番多かった1月でも暖房費は約1万5000円、冬場の光熱費は以前の家と比べて、約1/3にまで抑えられたと言います。
断熱材を厚くした結果、S邸では熱損失係数(Q値、断熱性を表す数値)は<1.09W/㎡・K>(北方型住宅基準1.6W/㎡・K以下)、竣工時に行った測定による気密性能(C値、気密性能を表す数値)は<0.44 c㎡/㎡>(北方型住宅基準2c㎡/㎡以下)となりました。そして、暖房用電気ボイラーの電力契約を「4kW」に設定。これはリビング用のエアコン並み暖房出力です。ふつうの1部屋分の暖房能力で家全体を暖めているのです。
「予算を削ることなく、ガマンしない家づくりをすることができました」というSさん。「北方型住宅ECO」は国が進める長期優良住宅のモデル事業として採択されていますので、200万円の補助金を受けることができました。ランニングコストだけでなく、初期費用も抑えることができてとても満足そう。
国内最高水準の家
「S邸は耐久年数200年を目指した国内最高水準の住宅です。将来的なメンテナンスも約30年、ほとんど必要がないでしょう」と拓友建設の妻沼社長。施主、設計者、施工者ともに才知を尽くしたS邸。「高性能住宅がスタンダードになる日」、そんな住宅の明るい未来の系譜を予感させるようなお宅です。
11年後に取材した記事はこちら
Sさまのお宅は11年経った後にも取材させていただいています。建て替え前より格段に暖かく、暖房消費電力も大幅に減りました。室内は内装に使った道産無垢材が年月を経て味わい深く、より愛着の増す住まいとなりました。詳しい内容は施工事例「築11年でも変わらない住宅性能 札幌市Sさま」の記事にてご覧ください。