森に隣接する図書室のある家 江別市Sさま

S様邸の特徴

Sさまご夫妻は大阪から北海道に移住しました。自然豊かな森林公園に隣接した好立地に建てた住まいは、7千冊を超える蔵書が収まる心地よい読書スペースや中2階の書斎などを実現。窓から四季の移ろいを愛でながら読書を楽しむ理想の暮らしを楽しまれています。

設計/新岡康建築設計事務所 

撮影/宮田千香子

大都市からの北海道移住計画

写真:玄関からダイニング方向。仕切がなくオープンな空間。奥にあるのは第二の階段。

「バードウォッチングに出かけても、大阪はどこに行っても人がいるんですよ。鳥なんてでてこないですよね」
そこで翻訳業への独立をキッカケに大阪から北海道に移り住むことを考えたSさま。
「仕事は20年勤め、あとは管理職になるだけ…そういうのにあまり魅力は感じなかったんです」。奥さまに提案したところ、寒がりな奥さまは躊躇されたそう。しかし、バードウォッチングも出来るし土地も安い!といった数々の魅力で何とかクリア。奥さまの札幌転勤も決まり、移住計画が本決まりとなりました。

写真:天井の勾配や床の素材の違いで、室内にメリハリがでた。

ご主人はフロンティアスピリットの北海道大学のご出身。若い時に自分を育んだこの地に特別な想いを抱いていました。
「街中に住むんだったら北海道で暮らす意味がない」と、大阪にいながら土地を探していたSさま。特に手つかずの自然がそのままの野幌森林公園はご夫婦とも大好きで「この近くに住めたらいいねぇ〜」と話していたそうです。巡り会った土地は野幌の森林公園のすぐ隣。道をはさんで向こうは原生林という大変恵まれた環境です。取材中もたくさんの鳥のさえずりが聞こえてきました。

写真:図書室の見返し。テレビ、ビデオ、オーディオを一カ所にまとめて。

建築家に依頼した理由をお聞きすると、「広すぎる家はあまり好きじゃないんです。小さく仕切られているのもだめですね。ワンルーム的でこの本が収まって・・・となると、ありきたりの家ではダメでした」とSさま。
インターネットを利用して建築家の新岡さんと打ち合わせを進め、とうとう北海道暮らしが実現します。

本と自然に囲まれた暮らしを満喫中!

写真:コンパクトにまとめられたキッチンダイニング。テーブルと椅子は澪工房の作品で、部屋の雰囲気を引き立てるのに一役買っている。

Sさまは膨大な蔵書の持ち主。その本を積み上げると、高さはなんと170m程、冊数はおよそ七千冊にもなります。そしてその数はまだまだ増える予定です。


とにかく本が好きだけど、人からもらった本はほとんどないそう。
「本が趣味なんです。食べる物にも、着るものにもあまり興味はないし。今は飲みにも行かないしね。大阪や東京にいたころは、飲みに行ったら帰りのタクシー代だけで一万円以上はかかるでしょ?それが月に数回あったんだから、それがなくなった今は本代なんてかわいいもんです(笑)」。

写真:本から顔を上げると目に入るのは森林の緑という図書室。座り心地の良い椅子はカンディハウス。今回、新築した家に合わせて一生モノを購入した。

本に囲まれた部屋の中は、まるでどこかの図書館のよう。これだけの本があっても圧迫感はなく、インテリアの一部としてすっかり馴染んでいます。どこの窓からも森林公園の白樺が見えるように設計されているので、本が醸し出す静寂感と、窓の外の緑園とが一緒になり、すっかり腰を落ち着けたくなる雰囲気です。


キッチンの正面には大きな木製窓を儲け、その外には公園へむけてウッドデッキテラスを造っています。さらに仕切をあえて造らずに、天井の高さを活かし収納もタップリ確保されています。階段下やロフトスペースにも物が収められるようになっており、2階には大きな納戸も。


特徴的なのは、ご夫婦2人が住む広くはないこの家に、場所をとるはずの階段が2つ、家を回遊できるようになっています。それは書斎にいる人をジャマしないようにとのお互いの思いやりです。さらにトイレも2つ。2階のトイレを広めの納戸につくったのは、将来のことを考えてのことだそう。

写真:2階の書斎。中二階風に造ってあるので独立感がある。ここでこれから翻訳の仕事を始める。仕事に疲れたら木と空が見えるピクチャーウインドウで目を休めて。

これからどんな事がしたいですか?という問いに、「雪が降ったら歩くスキーで鳥を見に行きます。木の葉が落ちた秋から冬がバードウォッチングには最適なんですよ。ここからだったらスキーを履いたまま出かけられますからね。それと将来、彼女の好きな暑い沖縄にも家を建てて、冬と夏で行ったり来たりなんて出来たらいいですね(笑)」。

施工側から伝えたいコト
「好きなモノをガマンなんてしなくていいのだ」

拓友建設(株) 妻沼 澄夫

「こだわりを活かすことは、大変だけど楽しい」

今回のお宅では「膨大な本の重さをどう解消するか」を悩みましたね。高さも大きもマチマチの本をスッキリと収め、棚板がたわまない厚みやピッチを設計者と打ち合わせを重ね一緒に研究しました。普通に頑丈な本棚を作れば、100〜200万円はすぐかかってしまうんですから。

コストをかければ簡単だけど、それじゃあ施工をまかされている僕らの仕事じゃない。次に大きな本棚の仕事が来たら、任せてくださいってカンジですよ(笑)。こうやって悩みながら、お客さんのおかげで僕らもまだまだ成長していくわけです。

「好きなモノが言えない人は、家をまだ建てない方がいい」

僕はお客さんに「ライフスタイルを見つけてください」っていつも言うんです。だって建てるときは「あなただけの家」なんだから、万人が住めるような家を建てなくてもいいんです。「これが好きだから、こういう暮らし方がしたい」という想いが実現できた方が、その後の人生が満足できるものになるはず。建てる僕らも、その方が楽しいし満足するんです。そりゃ、最中は悩みますけどね(笑)。どうか「何が好きか、大切か」を時々考えてみてください。


僕らは、お客さんの固定概念を出来るだけ解いてあげるべきだと思っています。たとえば、和室や子供の人数分の個室などは本当に必要ですか?結局、年に2回しか来ないお客さんのための8畳和室は『あかずの間』、2階の子供部屋は空室か納戸になっていたりします。
「何畳が欲しい」ではなく、「こういう住まい方をしたいから、この広さが欲しい」と考えて貰えたほうが、家造りはもっと自由で楽しいものになるはずです。こちらも「よっし!」と気合いが入り、もっとフレキシブルに変化できて、趣味や広い空間を楽しめ、家族が自然と集える提案をさせてもらえます。

「お客さんに対して、ウチが出来る事は100%します」

「ウチじゃなければ出来ないことって?」をいつも考えています。
僕らは設計事務所とのコラボレーションをずっとしているので、コストとデザインのバランスノウハウを持っています。数々の素材を吟味して、それを使ったデザインの仕上がりやローコスト化を意識しています。いいものを見て感性を磨いて、それはお客さん「だけ」の家を建てるためです。「あの人のためにいい家を建てられたなぁ」と僕らが満足したいんですね。また、とってもこだわりのあるお客さんには合いそうな建築家さんも紹介しています。
「どんな楽しい暮らしがしたいか」朝起きてから寝るまでを、ちょっと頭の中でシミュレーションしてみて下さい。それが容易に出来れば、きっとステキな家が出来上がることでしょう。